技術優位には継続的な努力

2026年7月27日

 2025年の日本製鉄によるUSスチール買収後、現地工場に派遣された技術者が老朽設備や操業改善に取り組んでいるという報道が相次いでいる。話題になったのは、約90年前の設備を前に「古い設備でよく造れていたものだ」という関係者の言葉や、品質改善、歩留まり向上といった地道な取り組みである。
 思い浮かぶのは、幕末から明治にかけて日本人が欧米へ渡り、製鉄所や造船所を食い入るように見学していた姿だ。当時、日本は教わる側だった。欧米の技術者を招き、近代工業の基礎を学び、追い付くことに全力を注いだ。それが今では、日本の技術者がアメリカを代表する製鉄会社へ赴き、品質管理や操業改善を指導する立場になっている。産業史の長い流れを感じさせる出来事である。
 もっとも、今回の日鉄が伝えているのは「魔法の新技術」ではない。品質管理、標準作業、設備保全、データに基づく原因分析、現場の改善活動―。いわゆる日本型ものづくりの強みとされる「改善文化」である。設備という「ハード」だけではなく、人や組織という「ソフト」にこそ競争力の源泉があることを改めて示している。
 しかし、この構図を「日本がアメリカを追い越した」と単純に受け止めるのは早計だろう。歴史を振り返れば、技術の優位は永遠ではない。遣隋使・遣唐使の時代には中国が先進国であり日本は学ぶ側、幕末には欧米が圧倒的な工業力を誇り、日本は必死に吸収した。戦後は日本が品質管理や生産技術で世界をリードし、自動車や鉄鋼、工作機械で存在感を高めた。そして現在は、半導体やAIなど新たな分野で各国がし烈な競争を繰り広げている。
 技術は一度手に入れれば安泰というものではない。人は移動し、企業は買収され、共同研究は進み、情報も世界中を駆け巡る。技術は時間とともに必ず広がる。ときには「技術流出」と呼ばれる形もあるが、人材の交流や企業再編を通じて知見が伝わること自体は、古今東西繰り返されてきた歴史でもある。
 だからこそ重要なのは、「いま持っている技術」ではなく、「次の技術を生み出し続ける力」である。そのためには、人への投資、設備への投資、研究開発への投資を惜しまないことが欠かせない。技術者を育て、現場で改善を積み重ね、新しい設備を導入し、次の世代へ技術を継承する。その営みを止めた瞬間、先頭を走る者もあっという間に追い付かれ、追い越される。
 技術の世界では、その立場は決して固定されない。だからこそ、学び続け、磨き続ける者だけが先頭集団に残ることができる。技術立国を掲げる日本にとっても、その原則はこれからも変わらないはずである。

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