中小製造業の経営をテーマにしたセミナーを聴講する機会があった。そこで示されたのは、「売上を追う経営から、利益を残す経営へ」という視点だ。ものづくり企業が直面する課題を改めて考えさせられた。
製造業を取り巻く環境は、この数年で大きく変化した。鋼材をはじめとする材料価格の高騰、エネルギーコストや物流費の上昇、人件費の増加、小ロット化や短納期化、品質要求の高度化など、企業に求められる対応は年々増している。一方で、価格転嫁は必ずしも十分に進まず、利益の確保に苦慮する企業も多い。
こうした状況では、単に売上を伸ばすだけでは経営は安定しない。利益が残らなければ、設備投資や人材育成、新たな技術への挑戦も難しくなる。会社を存続させるには、「いくら売れたか」だけでなく、「いくら利益が残ったか」という視点がこれまで以上に重要になっている。
セミナーでは、案件ごとの採算を把握する重要性にも触れられた。受注金額が大きい仕事ほど利益が出ていると思い込みがちだが、実際には追加工事や仕様変更、段取り替えなどで時間やコストがかさみ、利益が薄くなるケースもある。忙しく働いても利益が残らない背景には、こうした実態が隠れている。
そこで重要になるのが原価管理だ。コスト削減や管理強化という印象を持たれがちだが、本来は利益構造を見える化し、適正な価格設定や工程改善につなげるための経営手法である。「会社を責める数字ではなく、会社を守る数字」という言葉は、その本質を端的に表している。
もっとも、原価管理は万能ではない。作業時間の記録やデータの蓄積など、導入には一定の負担が伴う。現場からは「手間が増える」との声も上がるだろう。しかし、最初から完璧な仕組みを構築する必要はない。主要製品や主要取引先など、できるところから始め、実績を積み重ねながら自社に合った仕組みへ育てていくことが現実的だ。
原価管理は事業承継とも深く関わる。長年培ってきた技術や品質、顧客との信頼関係は、企業にとっての財産だ。その価値を次世代へ引き継ぐためには、経験や勘に加え、数字という客観的な判断基準が欠かせない。経験を否定するのではなく、数字で裏付けることで、変化の激しい時代にも対応できる経営へ進化させていきたい。
ねじ・締結部品業界も例外ではない。材料価格や物流費の上昇、取引先から求められる品質や納期への対応など、利益を圧迫する要因は数多い。だからこそ、自社の利益構造を正しく把握し、適正な価格で受注し、利益を確保する経営がこれまで以上に求められる。利益を残す経営への転換は、日本のものづくりの競争力を支えることにもつながる。
