世界のルールを生かし、国内のものづくりを守る

2026年11月2日

国際標準化機構(ISO)の設立に向けた会議が開かれてから、今年で80年。各国が技術や知見を持ち寄り、共通のルールを築く取り組みは、国境を越えた産業活動を支え、国際協調の重要性を示してきた。
だが、国際社会では今、共通のルールを尊重する姿勢そのものが問われている。象徴的なのが、国際刑事裁判所(ICC)に対する米国の対応だ。トランプ政権はICCの捜査や判断を問題視し、裁判所関係者らへの制裁を進めてきた。自国の立場と相いれない国際制度に圧力を加える姿勢は、国際ルールの実効性と信頼性を揺るがしかねない。
国際機関の判断が常に正しいとは限らない。権限や手続きに問題があれば、検証や改善を求めるのは当然だ。しかし、異論を唱えることと、制度の独立性を損なう圧力を加えることは別である。自国に都合のよいルールだけを受け入れ、不都合になれば退ける姿勢が広がれば、共通のルールへの信頼は失われ、力の強い者の論理が優先されかねない。
こうした問題は、製造業にも通じる。日本産業規格(JIS)の六角ボルト(B1180)と六角ナット(B1181)では、国際規格との整合化に向け、国内独自の仕様を定めた附属書(規定)を廃止し、本体規格への一本化を進める方針が示されている。海外との取引の円滑化や互換性の向上に加え、ボルトとナットを適切に組み合わせ、締結の信頼性を確保することも重要な目的だ。業界は本体規格品への移行を促すとともに、周知に努めてきた。
一方、安価な海外製品の流入によって国内メーカーの経営や生産基盤が圧迫されるとの懸念も根強い。ステンレスボルト業界では輸入品の比率が高まり、国内メーカーの撤退が相次いだ。製造基盤が弱まれば、技術や技能が失われるだけでなく、部品の安定供給にも支障を来しかねない。経済安全保障の観点からも、国内の生産基盤を維持するための対策が欠かせない。
国際標準化と国内産業の維持は、二者択一ではない。国際規格との整合化によって取引の円滑化や互換性の向上を図る一方、国内の生産・調達の実情にも目を配る必要がある。本体規格品への移行に当たっては、安全性を確保しながら現場への影響を見極め、周知を徹底すべきだ。規格の統一を、国内の技術と生産基盤の維持・強化につなげる視点が求められる。
国際標準は、ただ受け入れるだけのものではない。日本の技術や現場の知見を規格づくりに反映し、国際的なルールの形成に主体的に関わることが重要だ。ISOの設立に向けた会議から80年。日本の製造業には、国際協調を重んじつつ、国内の技術と生産基盤を守り、世界のルールづくりを主導する戦略性が求められている。

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