調達網の最適化、コロナ禍が残した課題

2023年5月29日

 コロナ禍が残した教訓の一つにグローバルな調達ネットワークの脆弱性にまつわるものがある。国内の調達網については2004年に新潟県で発生した中越地震をはじめ、東日本大震災を受けて調達網の強靭化やBCPの見直しが進められたがコロナ禍は国内に留まらず世界的な調達網の寸断をもたらした。デルタ株のまん延を受けて東南アジア諸国がロックダウンを余儀なくされ、それにより電子部品を中心に部品不足に陥ったことは記憶に新しいが、これにより海外での現地調達化を進めていた国内製造業は急遽国内での対応に迫られることになった。「ジャスト・イン・タイム」は常時を前提とした発想であり、確実に時間通りに動きかつ遅滞なく送り届ける流通インフラの存在を前提としている。今後自動車業界では内燃機関車の市場減少という文脈において部品メーカーの再編成が進むと見られているが、ねじを含め非常時を想定した最適な部品調達のあり方が定着していくことを期待したい。
 コロナ禍は自由経済を背景に際限なく拡大してきたグローバルマーケットに大きな疑問符を突き付けたが、コロナ禍とは別にここ数年で露わになってきたリスクがもう一つある。地政学的リスクである。過去に小欄でも触れているが、特に鋲螺業界にとってはねじの主要な輸入相手国である中国と台湾でのリスクは今後念頭に置くべき要素となるのは間違いないだろう。また今月初め高雄で行われたファスナーショーである台湾メーカーは地政学的リスクに備えてベトナムといった第三国に工場を出している、と話していた。東アジア諸国は日系企業の進出先として選ばれてきたがその中にはリスクを孕む国も含まれている。今後コストやインフラの成熟度だけでなく地政学的リスクを踏まえた進出先の決定が行われることは想像に難くはないが大国による地政学的リスクが高まる中、最近では半導体産業の動きが示唆しているものと思われるが、民主的な法治国家として主要各国と概ね良好な関係を築いてきた日本の立ち位置をビジネスの面から改めて評価することもできるのではないか。
 10年代後半に起こった米中による貿易摩擦を皮切りに、ウクライナ侵攻におけるロシアに対する経済制裁とその対抗措置にも見られるようにビジネスはもはや市場原理的なものではなくなりつつある。ビジネスが政治化したのではなく、市場原理的なグローバル市場というシンプルで平和だった時代が過ぎ去ったと見るべきだろう。ねじもまた最適調達のルールを背景に規格品が海外から流入するようになって久しいが、今後リスクの高まりと共に海外製品のあり方も変わってくるだろうか。動向を注視するべきだ。

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