先行き見通せぬ中で、来年も「備える」時間に

2022年12月26日

 産業界にとっては辛い1年となった2022年がもうすぐ終わろうとしている。鋲螺業界では昨年に引き続き鋼材価格をはじめとしたコスト上昇への対応に追われる形となったが鋲螺業界の需要家たる国内製造業は一部好調な分野も見られるも総じてみれば期待を超えるものではなく、中でも日本の屋台骨を担う自動車産業は結局一年を通じて盛り上がりに欠いたままとなった。今年の上半期についてはコストアップなどから苦戦した企業が多く、下半期にかけて価格改定の効果もあって盛り返したというのが概ねの流れではないだろうか。なお、秋口からは複数の線材メーカーが諸資材の上昇分を対象とした価格改定を決めている。本紙及び業界の商社団体が実施した価格改定に関するアンケートでは「鋼材価格以外のコスト上昇分について転嫁が難しい」という声が散見されたが来年以降も価格転嫁が課題の一つとなることが予想される。
 22年はマイナス方向への変動が大きい年となった。では23年こそは回復の年になるのだろうか?そう願いたいところだが、残念ながら現状では「インフレ」「円安」「コロナ禍」の3つのトレンドは概ね変わっていない。そしてこれらのトレンドが引き起こした変化、調達先の見直し、非対面による営業活動の日常化あるいはデジタル技術の活用といったトレンドも概ね変わらないだろう。更に将来を見据えるならば、円安が常態化もしくは更に進行すれば海外労働者にとって日本はもはや魅力的な市場ではなくなるだろう。これまで単純作業を担っていた労働層がいなくなれば現場に求められるのは省人化ではないか。また長らくFAX・電話が現役となっていた鋲螺業界でも在阪商社を筆頭にウェブ発注が急速に伸びておりECへの関心が高まっている。ネット注文が常態化すれば営業に求められる要素も変わってくるだろう。「対面を通じて顧客にどのような付加価値をもたらすか」という課題についてより知恵を絞る時が来たように思う。
 そして最後に円安が更に進行するようなことがあったとして、日本の鋲螺業界が再び輸出産業の色を強める時は来るだろうか。その時求められるのは海外企業とのコミュニケーション能力をはじめとした国際取引に関する知識やノウハウであるはずだ。あるいは途方もない空想だと思われるかもしれない。しかし、例えば台湾はねじ類の主要な輸入相手国であるが業界ではウクライナ侵攻以降巷で囁かれる台湾有事に備える声が聞こえ始めている。「備えあれば憂いなし」という言葉もある。備えようのない出来事もあるだろうが、無防備のまま非常事態に放り出されては何もできないだろう。先行き不透明な時間が続く中、23年は(も)備える時間にしてはどうだろうか。

バナー広告の募集

金属産業新聞のニュースサイトではバナー広告を募集しています。自社サイトや新製品、新サービスのアクセス向上に活用してみませんか。