上昇する初任給と中途比率、魅力ある雇用制度を

2023年5月1日

 前号で既報の通り、本紙は全国の読者や関連企業を対象に令和5年度新卒者採用状況と過去1年間の従業員採用状況をアンケート調査した。
 回答企業は前回調査から増えたが、新卒者でウエイトを占める大卒文系は45人減の83人、高卒は9人減の112人となり、業界の採用活動に苦戦が見られた。さらに注目すべき点は全卒業別で初任給が上昇したことだ。調査では初任給は大学院卒が前期比631円増の平均21万6417円、大卒が同3917円増の平均21万684円、短大卒が同8588円増の平均19万1616円、高専卒が同4977円増の平均19万2362円、専門卒が同6783円増の平均19万1199円、高卒が同4603円増の平均17万8310円だった。上昇率で見ると大卒は1・9%の上昇、高卒は2・6%の上昇となる。
 コロナ禍から経済回復が進み大手を中心に採用を増やす傾向が強くなり、学生側有利の売り手市場が昨年からさらに強まった。本紙調査では、人材確保の為に取り組んでいる事も聞いたが、「初任給の増額」は回答の第2位を占めており、初任給を上昇しなければ計画通りの採用ができない流れが強まっていると推測できる。
 賃上げの流れは、新卒採用だけでなく既存社員の昇給にも数値で現れ始めてきた。連合が発表した4月11日時点の平均賃金方式で回答を引き出した「定昇相当込み賃上げ計」は、加重平均で1万1022円、3・69%となった。連合によると〝新たに回答を引き出した組合の8割近くを中小組合が占めるが、依然「賃上げの流れ」はしっかりと引き継がれている″とした。
 本紙調査に話題を戻すと、中途採用比率も大きく伸びを示した。過去1年間の中途採用人数の合計は正社員730人となり、採用ウエイトが63・4%と前回調査から10%伸びた。大手が新卒採用の囲い込みをする中、元々中途採用を中心にする企業の多いファスナー業界で、さらにこの比率が強まった形だ。この傾向は採用市場全体でも同様で、日本経済新聞社の調査によると中途採用比率は過去最高の37%となり7年で2倍に上昇しているという。
 いかにして人材を採用するかは中小企業の重要な課題だ。大手各社が競い合いながら人材確保にドラスティックな取組みを進めている中で、中小が伝統的な雇用形態を維持したままでは大手に人材が流れる動きは止められない。機関によっては、フレックスタイム制や週休3日制、ワーケーション制度、リスキリング支援といった職場改善を構築する中小企業に奨励金を出す事例も始まっている。フットワークが軽いのが中小の強みだ。自社だからできる魅力ある雇用制度を考案していきたい。

バナー広告の募集

金属産業新聞のニュースサイトではバナー広告を募集しています。自社サイトや新製品、新サービスのアクセス向上に活用してみませんか。