本紙アンケート調査によると、令和7年度の大卒初任給は伸び率が鈍化した。2025年版「中小企業白書」によると、中小企業における人材不足感は依然として高い水準にあり、2024年は前年より「人材が不足している」との回答割合が増加した。特に従業員数30人超の企業では人材不足感が深刻化しており、現業職を中心に採用難が続いている。採用後の定着率向上が、中小企業経営における喫緊の課題となっている。
人材確保策として賃上げを実施した企業では、採用者の定着率が高い傾向にある。これに対し、賃上げを実施しなかった企業では定着率が低く、人材流出のリスクが高まっている。従業員数が増加していない企業ほど労働分配率の上昇幅が大きく、人材確保のためのコスト負担が経営に影響している。単なる人材確保にとどまらず、付加価値向上を伴う経営戦略の重要性が増している。
採用活動にかかるコスト増も課題となっている。従業員規模の大きな企業ほど採用コストの負担感は強く、経営者自ら採用活動に関与し、企業の魅力を積極的に発信する事例が目立っている。特にイノベーション活動に積極的な企業は、採用市場において優位性を持つ。成長性や挑戦する文化を打ち出すことが、優秀な人材の獲得につながっている。
外国人労働者の活用も進展している。専門的・技術的分野で在留資格を持つ外国人の雇用が増加し、今後の人材戦略において重要な位置を占めるとみられる。一方、副業・兼業人材の受け入れについては取り組みが限定的であり、柔軟な働き方を取り入れる環境整備が引き続き課題となる。
人材育成については、採用後に積極的な育成施策を行った企業で定着率や業績向上が確認されている。小規模事業者においては、体系的な育成プログラムの構築が遅れているケースも多く、育成リソースの確保が急務である。育成への継続的な投資が、企業の競争力強化に直結することが示されている。
さらに、人事評価制度の整備も定着率向上に寄与している。従業員数100人以上の中堅企業では、公正な評価制度の運用によって従業員のモチベーション向上と組織の一体感醸成を図る動きが広がっている。評価制度の整備が、従業員のキャリア形成支援にもつながり、結果として人材の長期定着に資する効果をもたらしている。
総じて、中小企業の人材戦略には、採用、育成、定着の各段階を一貫して強化する視点が不可欠である。賃上げや魅力発信、柔軟な働き方の導入、育成環境の整備、公正な評価制度構築といった施策を複合的に進めることで、持続的な人材確保を実現することが求められている。