アメリカの有力な製鉄会社、USスチールが2023年から進めてきた日本製鉄㈱による買収の進捗が二転三転している。
経営不振だったUSスチールは、好条件で買収してもらえるとして積極的だった。一方、日本製鉄㈱はアメリカでの事業展開を進め、技術獲得を目指していたため、両社とも順調に進んでいた。しかし、全米鉄鋼労働組合(USW)からは雇用や待遇の変化への警戒感が示された。同様に、アメリカの有力製鉄会社クリフスも日系企業の買収に警戒感を表明し、自社での買収も視野に入れていることを示唆した。さらに、政治的な反応も現れ、バイデン大統領(当時)やトランプ氏(現大統領)も「安全保障」に関わる懸念を理由に反対姿勢を示している。
民間企業同士の合意であり、契約遵守がなされれば問題はないはずだが、公共性の高さやアメリカ社会への影響の規模もあり、様々な思惑が絡んで混乱を引き起こしている。
一方日本では、2004年にフジテレビの筆頭株主となるために実業家の堀江貴文氏が乗り出したが、買収は実現しなかった。しかし昨今発覚したフジテレビの問題を受け、再び株式買い付けの動きがあると囁かれている。こちらも大手マスコミという公共性の高い事業であり、注目を集めている。
株式市場では日々変動する株価において、配当や株式の売却による利益期待が注目されがちだが、株価は経営に関する発言権や権利を含めて評価されている。したがって、株式取得競争は経営権を巡る競争であることを改めて認識させられる。
企業の規模に関わらず、有力株主や経営陣が変わった場合に気になる点は、どこまで経営方針が変更されるかである。
社内では「従業員の雇用や待遇」、対外的には「取引や供給の継続」、さらに「社名やブランドの存続」などが問題となるはずだ。株式取得や経営権獲得に動き出す場合、「どのような理由・目的」「どのような利点があり目指しているのか」といった方針を明確にしないと、周囲は安心できないだろう。
本紙関連業界でも、創業家が代々経営してきた企業が同業者や近隣業界の企業に事業を譲渡する場合でも、前述のように経営方針を継続することを確約させることが多い。経営権を譲渡することは必ずしもネガティブな面ばかりではない。経営に携わってきた人物が高齢化したり健康問題で業務を続けるのが難しくなったり、後継者がいない場合などは、価格に関係なく「任せる」「引き継いでもらう」という意図で進めることもある。
事業譲渡において重要なのは、どこまで経営方針の変更を許容し、また遵守を求めるかである。