タングステン逼迫で金型危機、超硬材料の調達困難に

2026年3月16日

 中国によるレアメタル輸出規制の強化を背景に、超硬合金の主要原料であるタングステンの供給逼迫が懸念されている。関東の鍛造金型メーカー各社を取材したところ、今年に入り超硬材料の調達が難しくなる事例が発生しており、材料価格や副資材の高騰、労務費の上昇や人材不足などが重なり、金型製品の価格転嫁を進める動きが広がっている。超硬材料メーカーからはすでに20~40%程度の値上げ通達が出ていると見られ、鍛造金型メーカー側でも10~30%程度、今後はそれ以上の値上げを実施、または見込む企業が多い。
 タングステンは超硬合金の原料に用いられるレアメタルで、切削用超硬工具のほかにも、ねじ製造に用いられる鍛造金型など塑性加工分野でも広く使用されている。世界生産の約8割を中国が占めており、供給の多くを中国に依存する構造から、調達には経済安全保障上のリスクが指摘されてきた。
 中国政府は2026年1月6日、商務部公告2026年第1号として「両用品目の日本に対する輸出管理を強化する措置」を公布・施行。さらに2月24日には同第11号および第12号を公布し、両用品目の輸出管理を継続的に強化している。これを受けて重要鉱物の国際供給網を巡る緊張感が高まり、関連材料の調達環境にも影響が及び始めている。
 鍛造金型メーカーは超硬材料メーカーから超硬材料を調達して金型を製造する。超硬合金は金型寿命の延長や加工精度向上を支えてきた基盤材料であり、供給が制約されれば金型供給に連鎖的な影響が及ぶ。今回の規制は単なる原料不足の問題にとどまらず、取引継続そのもののリスクを内包するとの見方も広がる。
 タングステンの影響は金型材料にとどまらない。鍛造金型メーカーが使用する形彫放電加工機の電極の材料に使用される銅タングステンも同様の輸出規制の影響で価格が高騰。さらに超硬チップやドリル、ハイス鋼、ワイヤー放電加工機用のワイヤーなど副資材も軒並み値上がりしている。加えて労務費の上昇や人材不足も重なり、鍛造金型メーカーの経営環境は厳しさを増している。
 鍛造金型産業は少量多品種の一品生産が主流で、自動化が難しく熟練技術者の技能が生産の中核を担う。一部工程では人による手作業が不可欠であり、人材不足は生産能力そのものに直結する問題となる。
 関東の鍛造金型メーカーの間では、こうした状況を踏まえ価格転嫁の動きが加速している。あるメーカーは「一部の超硬材料メーカーからは、タングステンや銅タングステンの供給停止を通達された」と明かし、材料メーカーが供給先を絞っている可能性を指摘する。材料メーカー側では中国以外の調達国の確保、超硬材料のリサイクル、代替材開発などを進めているものの、仮に供給網の再構築が進んだとしても材料価格の大幅上昇は避けられないとの見方が強い。経済安全保障リスクを織り込んだ新たな基準価格になる可能性もあり、今後の調達状況によっては現在実施、または想定されている値上げ幅を大きく超える価格設定を迫られる懸念も出ている。
 メーカー各社の対応も分かれる。A社は労務費転嫁を目的とした値上げを進めるが「案件ごとに採算が異なり一律転嫁は難しい」と説明。採算の取れない案件を抱えつつバランスを取っているといい、「案件によっては3~5割以上の値上げが必要」とする。タングステン供給がさらに逼迫すれば採算の合わない案件から受注停止も検討せざるを得ないという。人手不足で案件を処理しきれず売上機会を逃す場面もあり、前期は取引先や縁故を頼りにリファラル採用を進めた。
 B社は材料費やエネルギーコスト、労務費の上昇分を順次価格転嫁するとともに、自社の強みを打ち出すため標準品に加えて長寿命製品のラインアップを新設。C社はリピート品向けに材料在庫を積み増すが「材料メーカーが供給停止すれば超硬金型そのものが作れなくなる」と危機感を示す。案件ごとに原価を算出できるシステムを構築し、採算管理を徹底する。
 D社は「中国の技術力は日本に近づいている」として世界市場で中国製の安価な金型との競争激化を指摘。材料逼迫への対策として調達先の確保と超硬金型のリサイクルに取り組む。海外拠点の調達ルート活用や、材料代を先に受け取る取引形態の検討など、資金面を含めた対応策を模索する。自社は一律割合の値上げを実施する。
 E社は超硬材料を使用しないもののハイス鋼の高騰が影響する。「政府は補助金ありきの物価対策や賃上げだけを推進するのではなく、中小製造業が十分に価格転嫁できる施策を前面に押し出すべき」と指摘する。自動車業界ではEVシフトの揺り戻しとしてエンジン・ハイブリッド回帰の動きも見られるが、F社では長期的には電動化が進むとの見方を示し、「エンジンやミッション部品が減る前提で事業戦略を考える必要がある」とする。ファスナーメーカーの受注量と合せて確保を見込んでいた材料が今年に入り供給停止の通達を受ける事例もあり、材料不足は深刻な問題になっているという。
 G社は「超硬だけでなく副資材のほぼすべてが値上がりしており、労務費を含めた価格転嫁は不可避」と指摘。タングステン調達国が中国以外にシフトすれば高価格が新たな標準になるとの見方を示す。一方で最も懸念するシナリオとして「デカップリングにより中国国内では安価な金型が流通し、日本側の完成品が競争力を失う可能性」を挙げ、金型業界のみならずファスナー産業全体への影響を警戒する。
 タングステン調達の不安定化は鍛造金型を使用するファスナー産業、さらにはそのユーザー産業にも波及する可能性がある。中国国内でもタングステン供給が逼迫しているとの見方があり、迂回輸出を防ぐため中国政府が国内流通も制限している可能性が指摘される。重要鉱物を巡る供給リスクが現実の産業問題として表面化する中、買い手側の理解、政府による経済安全保障政策の具体化とサプライチェーン強靱化が急務となっている。(取材=東京本社・大槻)

 

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