環境価値が競争力を変える

2026年7月13日

 脱炭素への対応が世界的な潮流となる中、製品ごとのCO2排出量を可視化する動きが製造業全体で加速している。本紙既報の通り、ファスナー業界でも企業が独自に先行して自社製品のCO2排出量を算定するサービスが始まった。これは単なる環境活動ではなく、今後の競争力を左右する新たな付加価値づくりの第一歩として注目すべき動きである。
 これまで製造業の調達では、品質、価格、納期の「QCD」が評価基準だった。しかし近年は環境(Environment)が加わり、「QCDE」という新たな価値観が形成されつつある。完成品メーカーはScope3排出量の把握や情報開示を求められ、部品メーカーに対しても製品単位での排出量データの提出を要請する動きが広がっている。ねじも例外ではなく、環境性能が取引条件の一つとなる時代は着実に近づいている。
 背景には、EUの炭素国境調整措置(CBAM)をはじめとする国際的な制度整備がある。こうした流れを受け、大手企業では排出量算定ツールやAIを活用したシステム導入が進み、データ収集や分析を効率化する動きも活発化している。
 鉄鋼業界では、製品ごとのカーボンフットプリントを明示した低炭素鋼材の販売が始まり、建設分野で採用される事例も現れた。環境性能そのものが製品価値となり、市場で評価される段階へ入りつつある。ねじ業界も同様の方向へ進む可能性は十分にある。
 これまで、ねじは価格競争へ陥りやすかった。しかし、品質や納期に加え、排出量という新たな評価軸が加われば、価格だけでは測れない付加価値を生み出すことができる。環境データを提示できること自体が信頼性となり、日本メーカーが得意とする高品質・高信頼性と組み合わせることで、新たな競争優位につながる可能性もある。
 もちろん、製品単位の排出量算定は容易ではない。原材料や表面処理、物流などサプライチェーン全体のデータ収集が不可欠であり、中小企業にとって負担は小さくない。それでも先行してノウハウを蓄積した企業は、市場の変化をビジネスチャンスへ転換できる可能性が高い。
 環境対応はもはやコストではなく、企業価値を高める投資である。QCDに環境という一文字が加わるだけで、サプライヤーの評価基準は大きく変わる。環境情報を持つ製品と持たない製品が選別される時代は、想像以上に早く訪れるかもしれない。ファスナー業界には、この変化を受け身で迎えるのではなく、自ら市場を切り拓く姿勢を期待したい。QCDEという新たな競争軸を日本のものづくりの強みに変えることができれば、それは価格競争から脱却する大きな契機となるはずだ。

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