中小企業白書で示された「稼ぐ力」

2026年5月11日

 2026年版中小企業白書・小規模企業白書が4月24日に閣議決定された。今回の白書が強く打ち出したのは、中小企業の「稼ぐ力」の強化である。物価上昇や人手不足が長期化する中、従来の延長線上にある経営では持続的な成長が難しいことが、改めて明確に示された。
 白書が示す「稼ぐ力」とは、単なる売上拡大ではなく、付加価値を生み出す力の向上を意味する。労働力人口が減少する社会においては、人手を増やすことで成長する時代は終わりつつある。限られた人員でより高い価値を生み出す体制の構築こそが、企業の将来を左右する。
 付加価値を高めている企業の特徴として、白書は価格転嫁への取り組み、成長投資、そして差別化戦略の実行を挙げている。逆に、現状維持にとどまる企業ほど競争力を失いやすい傾向が見られる。「現状維持」は安定ではなく、むしろ最大のリスクとなりつつある。この視点は、ファスナー業界にもそのまま当てはまる。
 ファスナー製品は原材料価格やエネルギーコストの上昇が続く中、単なる数量拡大やコスト削減だけでは利益を確保することが難しくなっている。今後は、製品やサービスの付加価値そのものを高める取り組みが不可欠となる。
 その具体策の一つが、差別化の推進である。メーカーでは他社が容易に模倣できない技術の蓄積、商社では自社特有のソリューション営業が重要となる。また政府が示した17の戦略分野などへの対応力が企業の将来を左右する局面に入っている。
 白書が強調する原価管理の重要性も見逃せない。自社のコスト構造を正確に把握できている企業ほど、適切な価格設定や価格転嫁を実現している傾向が確認されている。材料費や外注費、副資材費、さらには人件費が複雑に絡むファスナー製造においては、原価の見える化が競争力の基盤となる。
 さらに、経営計画の策定も「稼ぐ力」を支える重要な要素である。白書では、計画を策定し社内で共有している企業ほど付加価値の増加率が高いことが示されている。受注対応型の経営に終始するのではなく、自社がどの市場でどの価値を提供するのかを明確にすることが求められる。
 「稼ぐ力」は一朝一夕に身に付くものではない。設備投資、人材育成、原価管理、そして経営の意思決定が相互に結びつくことで初めて実現する。変化を避けることができない以上、どの方向に変わるかを主体的に選ぶ姿勢が重要となる。産業を支えるファスナーの供給力と技術力を維持するためにも、業界全体として付加価値創出への転換を急ぐ必要がある。「稼ぐ力」をどう高めるか。今答えが求められている。

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