ベトナムの工業団地で目にしたのは、20~30代の若い技術者たちが工作機械や測定・検査設備を自在に操る姿だった。かつて「安価な労働力の国」として語られた同国の製造業は、いま明らかに別の段階へと移行している。世界のサプライチェーン再編が進む中で、その存在感は補完的な拠点から中核へと変わりつつある。
ねじをはじめとする締結部品や機械部品、自動車関連部品などの分野で生産能力は着実に高まり、アジアの重要な製造拠点としての地位を築いている。約1億人の人口規模と若年労働力の厚みを背景に、現場の技能は底上げされている。日本企業の担当者からも「習得が早く意欲が高い」との評価が聞かれた。
政府は工業団地整備や外資優遇、職業訓練の拡充を進め、製造業を国家戦略として育成してきた。日本や韓国、欧米企業の進出が相次ぎ、輸出産業は拡大している。かつては「チャイナ・プラス・ワン」としての位置付けだったが、近年は主力拠点の一つとして生産体制を強化する動きが目立つ。人件費上昇や地政学リスクを背景に、生産戦略そのものが見直されているためだ。
一方で、成長の裏には外部環境への脆弱さもある。ベトナム政府は、イランによるホルムズ海峡封鎖に伴う原油価格の高騰と供給網の混乱を受け、日本に支援を要請した。石油備蓄の提供や購入条件の整備を求めたとされる。原油輸入をクウェートに大きく依存する同国では給油所の営業停止が相次ぎ、市民生活や産業活動にも影響が広がっている。エネルギー供給の不安定さは、製造拠点としての持続的成長に影を落としかねない。
急速な発展の過程では、品質管理や納期対応に企業間のばらつきも残る。図面や仕様の理解を巡る意思疎通の課題も指摘されるが、こうした問題は多くの新興工業国が通過してきた段階であり、教育や技能訓練の充実を背景に改善は進んでいる。
日本にとっては人材面の変化も見逃せない。これまで技能実習生などを通じてベトナムから多くの人材を受け入れてきたが、近年は円安や賃金の伸び悩みにより、日本で働く魅力は相対的に低下している。より高い待遇を求めて韓国や台湾、欧州を選ぶ若者が増えているとの指摘もある。
人口減少と高齢化が進む日本に対し、ベトナムは若い労働力を背景に製造業を拡大する。両国は対照的でありながら、サプライチェーンの中で不可分の関係にある。日本企業は現地人材とともに生産を進めており、単なる生産移転にとどまらず、人材育成や技術の共有、さらにはエネルギーを含む供給網の安定確保を通じて相互に成長できる関係を築けるかどうかが問われている。その姿勢こそが、日本のものづくりの将来を左右する。
