不良品は静かな敵、現場力で品質を守れ

2025年11月3日

 製造業における「不良品」は、単なる使えない製品ではない。企業の信頼を損ない、社会全体の生産性を低下させる「静かなコスト」として存在する。外観の破損や組立ミス、異物混入に至るまで原因は多種多様だが、共通するのは「人」と「仕組み」の両面に課題が潜んでいる点である。
 経済産業省の調査によると、品質トラブルの最多要因は「従業員教育の不足」だ。工場における改善事例では、外国人従業員への紙マニュアルが十分に理解されず不良流出が続いたが、動画による作業手順の共有を導入することで、数週間で不良見逃しが解消されたケースがある。母国語字幕付きの動画マニュアルを活用した工場では、工程内不良を3分の1まで削減した事例も報告されている。これらは、不良の多くが個人の過失ではなく、仕組みの欠陥に起因することを示している。
 実際これまで、複数の工場見学取材を通して感じたのは、改善活動の多様性だ。冷間、熱処理、切削などの工程ごとに、異常処置の再確認やデータ管理による発生源対策が徹底されていたり、異常が発生した際に当事者が対応し、職制が再確認したりする「二重チェック」の仕組みは、異常品の流出を未然に防ぐ有効な手段として機能している。温度や水流量の微細な変化を検知し、ロボットが「要検査品」として自動分別するシステムを導入する企業もあり、機械を停止せずに品質を維持する工夫が現場で実践されていた。
 品質管理は、設計段階の「設計品質」と製造段階の「製造品質」の両面で成り立つ。工場内部での不良は、原価や工数の損失として把握され、良品率や直行率、歩留まり率といった指標で管理される。各工程における工程内検査や出荷前検査は、不良の市場流出を防ぐ最後の防波堤として重要な役割を果たしている。近年は、IoTやセンサーを活用して工程や製品状態の数値、画像、言語情報を統合管理し、未然防止や予測予防に活かす取り組みも広がっている。
 「不良品ゼロ」は理想的な目標に聞こえるかもしれない。しかし、様々な工場で実施されている改善活動を見る限り、理想に近づく現実的な力となっている。重要なのは不良を出さない努力だけでなく、不良を放置しない文化を業界全体で醸成することだろう。品質は設備や技術だけでなく、「人の意識の総和」によって支えられる。企業に求められるのは、技術力のみならず、教育力と現場力の強化である。
 製造現場で働く各従業員が、良品の定義を共有し学び合う文化の定着こそ、品質立国・日本の競争力を支える基盤だ。実践されている多様な取り組みは、現場力の深化と品質管理の重要性を示し、製造業における持続的成長の礎となる。

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