新政権は停滞脱却のきっかけ作れるか

2025年10月27日

 自民党新総裁に高市早苗氏が就任し、21日の首相指名選挙を経て第104代首相に選出された。憲政史上初の女性首相の誕生となった。日本維新の会は閣外協力の形で政策運営に関与する見通しだ。
 いずれが政権を担うにせよ、国民が求めるのは「生活実感としての変化」だ。とくに、誰もが働き、暮らしを立て、家庭を築ける社会の再構築が問われている。その一例が、外国人労働力への依存からの脱却であり、高市氏も移民・技能実習制度の見直しを掲げている。これは与野党問わず、今後の政権が向き合うべき共通課題だ。国内労働力の重視、賃金と雇用の質の改善、戦略産業への投資強化によって、生活の安定と経済の底上げを図る必要がある。
 そしてエネルギー価格や輸入コストの上昇により物価は上昇傾向にあるが、賃金や可処分所得が伴わなければ、生活はむしろ厳しくなる。重要なのは「モノのインフレ」に見合う「ヒト(労働力)のインフレ」だ。名目賃金の上昇だけでなく、社会保険料の見直しや将来不安の軽減といった包括的な対策が求められる。
 過去の構造改革は一部の既得権益層を温存する「名ばかり改革」に終始してきたといえる。今後は、必要なら既得権にも踏み込み、国全体の利益を優先する「本当の改革」が必要だ。特に連立政権では、調整の中で明確な方向性を示せるかどうかが問われる。
 長期不況が国民心理に与えた影響も深刻だ。将来不安が極端な節約志向を生み、内需回復の妨げとなっている。この悪循環を断ち切るには、公的部門が先導し、前向きな支出と投資を通じて安心感を醸成する必要があり、また未来への投資環境を整えることが重要だ。
 衆議院選挙は遅くとも2028年秋に行われる。新政権には、実質的に次の選挙までに成果を示す責任がある。特に自民党にとっては「与党で居続けるラストチャンス」となる可能性もある。
 30年以上に及ぶ経済の歪みは、短期で解決できるものではない。だからこそ、丁寧な説明と対話を通じ、政策の実効性を示しながら信頼を再構築していく必要がある。
 結論として、新政権に課せられる最大の使命は、「失われた時代」からの脱却に向けたきっかけづくりを行うことだ。首相が誰であれ、国民が求めるのはスローガンではなく、実感できる変化である。
 現実的かつ実効性ある政策により、ヒトのインフレを伴う内需主導の好循環を実現できれば、その政権は「新しい経済の基盤を築いた」として後世に評価されるだろう。だが、理念先行や説明不足、問題先送りに終始すれば、期待は失望に変わる。新政権に与えられた時間は、決して長くない。

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