トランプ米政権が進める鉄鋼・アルミニウム関税が、ねじだけでなく建設機械、工作機械といった派生製品にまで広がった。ねじ類は今年6月から50%に引き上げられているが、9月末時点で720品目の派生製品が追加対象となった。米政府は鉄やアルミを素材とする製品を「派生製品」と位置づけ、課税範囲を拡大した。
影響は大きい。建設機械ではフォークリフトや移動式クレーン、トラクター、油圧ショベル、産業用ロボット、工作機械ではマシニングセンターや射出成形機、金型なども含まれる。当初、これら製品は相互関税15%で収まると見られていたが、50%課税となればコスト増は避けられず、米市場での値上げは不可避だ。日本メーカーは戦略の見直しを迫られる。
今年8月の(一社)日本工作機械工業会の記者会見では、相互関税15%が確定したと受け止められ、投資計画再開への期待感が広がっていた。だが派生品課税の拡大で状況は一変した。5割課税が現実となれば、設備投資など戦略の方針転換は避けられない。
(一社)日本建設機械工業会は9月に要望書を政府に提出した。建設機械の国内出荷額は年間3・5兆円、そのうち7割にあたる2・4兆円が輸出であり、北米市場は全体の50%を占める。米国に輸出される日本製建機は同国の資源開発やインフラ建設に不可欠であり、日米双方にとって欠かせない存在だ。ここに高率関税が課されれば、日本企業だけでなく米国需要者もコスト高に直面する。このため経済合理性を欠く政策が双方に痛みをもたらすことは明白である。
サプライチェーン全体への打撃も懸念される。建設機械の製造から運送、整備に至るまで幅広い裾野産業が存在する。中小企業への影響は深刻となり、雇用や地域経済にも波及しかねない。要望書が「派生品対象からの除外」と「国内企業への経済対策」を求めたのは、切実な現場の声を反映したものだ。
問題は通商摩擦にとどまらない。国際秩序が保護主義に傾斜する中、日本企業は米国依存の輸出構造を改め、調達・販売先を多角化する必要がある。新興国市場の開拓、欧州との経済連携協定の活用、国内での技術投資による競争力強化が不可欠だ。
政府は粘り強い通商交渉を進め、基盤産業の重要性を訴え続けなければならない。同時に、関税負担を吸収できない企業への支援やサプライチェーン再編への政策誘導が求められる。
米国の一方的な関税拡大は、日米両国の産業界に損失をもたらす。自由貿易の理念を守り、国際経済秩序の維持に向けた戦略的対応が急務である。
