中小製造業の転換期、人材投資が存続の鍵

2025年10月6日

 日本経済を長年支えてきたのは、各地に根を張る中小製造業だ。高度な部品加工や特殊技術を担い、産業全体の競争力を底辺から支えてきた。自動車、航空機、工作機械といった基幹産業の製品が国際市場で存在感を示せるのも、その背後に中小企業群の技術力があるからにほかならない。地域に雇用を生み出し、技能を次世代に伝承してきた役割も大きい。
 その中小製造業は今、歴史的な転換点に立っている。デジタル化や自動化の急速な進展は、従来の技能や勘に依拠した経営を根本から揺さぶる。サプライチェーンの国際的再編は取引構造を変化させ、部品調達の不確実性を高めている。環境規制の強化は既存の生産方式に修正を迫り、人手不足は構造的に深刻化している。これらの変化は、経営資源の限られる中小企業にとって重い負担となっている。
 打開策として注目されるのが「リスキリング(職業能力の再開発)」だ。AIやIoT、デジタル設計、データ解析といった技能を従業員が身につければ、生産性改善や不良率低減に直結し、新規事業の創出にもつながる。組織規模の小さい中小企業では、一人のスキル向上が企業全体に波及しやすい。リスキリングは単なる教育施策ではなく、企業存続のための経営戦略と位置づけられる。
 とはいえ現場の声に耳を傾ければ、「人も資金も時間も足りない」という切実な訴えが多い。納期対応に追われ、教育に割く余力は乏しい。育成した人材が流出すれば投資が無駄になるのでは、との不安も根強い。これらの懸念が学び直しを阻んでいる。だが現状維持を優先して学びを先送りすれば、技術革新のスピードに取り残される。
 政府も「人への投資」を成長戦略の柱に据え、教育訓練給付制度の拡充や中小企業向け助成を進めている。しかし制度が存在しても、現場で十分に活用されなければ意味はない。申請の煩雑さや情報不足が障害となり、宝の持ち腐れとなっているのが実情だ。制度設計の「使いやすさ」を高め、地域金融機関や商工会議所、産業支援機関と連携した伴走型支援を強化することが欠かせない。
 最終的に舵を取るのは企業自身。「人材育成は未来への投資」との意思を明確に示し、従業員の学び直しを進めれば、企業文化そのものが変わり得る。学ぶ意欲を持つ人材が集まり、定着する好循環が生まれれば、人材流出の懸念も和らぐだろう。
 中小製造業は地域社会を支える雇用の受け皿であり、技術革新の芽を育む存在だ。その基盤が弱体化すれば、日本の産業力は根底から揺らぎかねない。逆に、人への投資を重ね、リスキリングを通じて変化に適応できれば、地域から新たな産業やイノベーションが芽吹く可能性は大きい。

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