稼ぐ力はDXにあり

2025年6月9日

 経済産業省などが5月30日に公表した「2025年版ものづくり白書」は、製造業の競争力強化に向け「稼ぐ力の向上に資するDX(デジタル・トランスフォーメーション)」を主要テーマのひとつに掲げた。製造現場の効率化だけでなく、高付加価値化やビジネスモデル変革を視野に入れた取り組みが必要とされている。
 白書によると、多くの企業はデジタル化による業務効率の向上に一定の成果を挙げている。一方で「高付加価値化」や「企業文化の変革」といった中長期視点のDXでは、課題が残る。経営と現場が連携し、組織全体で変革を推進することが求められる。
 具体例として、LMガイドやボールねじの機械要素部品大手では、設備総合効率(OEE)を高めるシステムサービスを展開。製造現場の課題である人手不足や設備老朽化に対応しつつ、DXを通じて「ものづくりサービス業」への転換を進めている。自社工場での実証を起点に、現場とデジタル部門の協働体制を整備。外部人材の活用も進め、柔軟な変革を可能にしている。
 同サービスは部品の予兆保全や稼働状況の見える化により、ユーザーの生産性向上に貢献。この企業では、現場改善の成果をもとに、マシンビルダーや最終ユーザーに新たな価値を提供し、収益源の多様化を実現している。現在はスタートアップとも連携し、次世代FAプラットフォーム構築を視野に入れる。
 また、自動車と素形材業界による「自動車金型づくり効率化推進会議」では、モデルデータ活用に向けた図面ルールの標準化が進んでおり、業界横断での競争力強化に寄与している。
 労働力不足が進行する中、AIやロボットの活用も重要なテーマだ。現在のロボットはソフトとハードが一体で、柔軟性に欠ける。今後は多品種少量生産にも対応可能な、より自律的なロボットの開発が必要になる。経産省は技術開発支援やAI導入リスクの明確化などで後押しを進めている。
 さらに、製造業が関与する物流改革も避けて通れない。改正物流効率化法により、荷主企業にも積載率向上や荷待ち時間削減が求められており、ここでもDXによる対応がカギを握る。
 日本の製造業が持続的な競争力を維持するには、単なる効率化にとどまらない「攻めのDX」が不可欠である。DXを経営戦略の中核に据え、現場と一体となって価値創造を進めることが、次世代のものづくりのあり方を左右する。
 DXの本質は効率化ではなく、新たな価値創出による「稼ぐ力」の強化にある。

バナー広告の募集

金属産業新聞のニュースサイトではバナー広告を募集しています。自社サイトや新製品、新サービスのアクセス向上に活用してみませんか。