人材確保と現場力維持へ、出戻り社員が製造業を救う

2025年6月2日

 慢性的な人手不足が続く中小製造業では、技能を持つ人材の確保が課題だ。現場の技術は一朝一夕に習得できるものではなく、熟練した中堅人材が一人抜けるだけでも、生産や品質管理に大きな影響を及ぼしかねない。
 こうした状況下、近年注目を集めているのが「アルムナイ」、いわゆる出戻り社員の受け入れだ。転職や家庭の事情などによって一度退職した社員が、他社での経験を経て再び自社に戻ってくる。これは単なる人員補充にとどまらず、組織に多くの利点をもたらす。
 まず、出戻り社員は自社の文化や業務プロセスを理解しているので、再入社後の立ち上がりが早い。製品ごとに微細な精度や工程の違いがある現場では、この即応性が非常に大きな価値を持つ。
 他社で得た知識や技術を自社に持ち帰ることもできる。大阪にある金属加工メーカーでは、元社員が大手自動車部品メーカーへの転職を経て数年後に復帰した。この社員は異業種で培った自動化技術や品質管理手法を活かし、自社の製造ラインに大きな改善をもたらした。社長は「退職時は残念だったが、外で経験を積んで戻ってきたことで、むしろ大きな戦力となった」と話す。
 もっとも、出戻り社員の受け入れは偶然には任せられない。企業として、あらかじめ受け入れの準備を整えておくことが重要だ。その第一歩は、退職者を円満に送り出すこと。「いつか戻ってきてほしい」といったメッセージを伝えるだけでも、本人の心に残り、数年後の再縁につながる可能性がある。前述の金属加工メーカーでは、退職者に感謝状とともに「再会を願うメッセージカード」を贈る取り組みを行っており、これが実際に出戻るきっかけとなったという。
 再入社者に対する処遇や役割設計も不可欠だ。過去の経験と他社での実績を踏まえた適切なポジションを提示できれば、本人のモチベーションが維持でき、スムーズに成果を発揮してもらえる。「一度辞めたから一からやり直し」といった対応では、せっかくの人材を活かしきれない。
 中小製造業では、技能継承や現場ノウハウの維持が競争力の根幹だ。単なる採用活動だけでは即戦力の確保が難しい今、出戻り社員という選択肢は非常に実用的・戦略的な対応ではないか。すべての出戻りがうまくいくとは限らないが、制度や文化として受け入れる体制を整えておけば、有能な人材が再び自社に戻り、過去以上の活躍をする可能性は十分にある。
 「一度辞めた社員をどう迎えるか」は、企業の柔軟性と人材観を象徴する問いである。出戻りをネガティブに捉えるのではなく、むしろ「未来の味方」として積極的に受け入れる姿勢こそが、中小製造業の持続的成長を支える原動力となる。

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