2023年業界トレンドと課題は? 「価格転嫁」と「省力化」、SC見直しの動き対応も

2023年1月2日

 2023年の製造/ファスナー業界の課題やトレンドは何か考察する。価格転嫁や人材不足を補う省力化・自動化への取組みは昨年から続く課題だ。サプライチェーン見直しの動きへの対応や、カーボンニュートラル(CN)への取組みは今年、各社で活発化が予想される。
 製造業の人材不足は引き続き今年も課題として引き継がれた。政府の物価上昇にともなう賃上げ要請は、好業績の大手企業を中心に受入れが進む一方で、中小企業は仕入れ価格の高騰と進まない価格転嫁の二重苦により利益確保できない中で賃上げが進まず、大手との給与格差が開き、人材確保はより難しい局面に向かうことが予測される。
 賃上げ促進や給与格差問題は政府に政策を求めるとして、喫緊の人材不足を補う省力化と自動化は引き続き業界のトレンドとなる。業界には機械オペレーターなど熟年技術を必要とする人材も多く、どうしても自動化できない環境がある。業務全体を細分化して、人手が必要な工程にマンパワーを注力するために、人手が必要ない工程にロボットや搬送機などを導入して自動化する〝部分効率化〟の具体的ケースも昨年より各社で見えてきた。IoTによる工程の見える化も大手では既に導入が始まっているが、汎用サービスの登場で一から構築する必要がなくなり設備投資へのハードルも下がってきた。省人化に貢献できる仕組みであれば検討する余地もあるだろう。
 価格転嫁は引き続きの課題だ。政府では、原油・原材料価格の高騰と、物価上昇と賃上げに向けた政策の具体化が見込まれるが、すでにこの二重苦を1年近く受け続けてきた中小製造業の体力が危惧される。実質無利子・無担保の新型コロナウイルス感染症特別貸付の利払いが今春から始まるが、一時的に抑えられてきた倒産件数もすでに伸びている。厳しい状況下で企業存続に直結する利益確保に向けて、今年より価格転嫁により製品価格の改定が昨年以上に進むと予想される。世界的な資材価格の高騰や円安、サプライチェーンの見直しによる一部での国内回帰が進み、国内調達・国内生産のメリットが生まれるほか、これまで安価に加工を引き受けてきた外注先の廃業等にともなう減少がその遠因となる。安い見積りを提示するメーカーがいなくなり、これまでの価格が適正ではなかったマインドがユーザーに浸透することが期待される。
 ユーザーのサプライチェーンの見直しの動きへの対応も各社各様で必要となる。コロナ禍では半導体をはじめ部品不足の影響にともなう生産の滞りや、生産計画の不透明さから、サプライヤーの本来の供給能力が発揮できず需給の混乱が続いた。中国のゼロコロナ政策により日本の大手製造業は海外生産拠点を中国以外のリスク分散地として、タイ・ベトナムといった東南アジアのほか日本国内にも目を向けている。世界トップの半導体生産能力があり、ファスナーの一大生産地でもある台湾は中国からの軍事リスクに晒されており、ここでもリスク回避に向けたサプライチェーンの見直しが検討されている。
 本紙の新年アンケート調査(別掲)では、こうしたサプライチェーン見直しの動きの対応として、工程改善によるリードタイムの短縮、内製化、生産キャパシティーの拡大、在庫量の見直し、同業者との連携強化など様々な回答が見られ、今年はこれらの動きが業界で活発に見られると予測できる。
 中小製造業でも無視できないのがカーボンニュートラルへの対応だ。国内のCO2排出量は産業部門(製造業、建設業、鉱業等)の排出量が最も高く、製造業は日本がカーボンニュートラルを達成するうえで重要な役割を担っている。すでにファスナー製品のユーザー業界が取組みを本格化しているが、この動きは自社だけでなくサプライチェーン全体での達成を求める傾向になっている。ユーザー企業との取引関係を維持するためにCO2排出削減に取り組まなくてはならないケースは今後増えてくるはずだ。
 DXに次ぐ成長戦略としてGX(グリーントランスフォーメーション)の言葉も製造業に広まりつつある。気候変動による異常気象は経済活動を停滞させて、産業競争力を低下させるリスクがあるとして欧米企業を中心に進んでいる。カーボンニュートラルの実現に向けて、社会システムそのものを変革する取り組みとなる。ここでは、製品・サービスの製造過程で排出された温室効果ガスをCO2排出量に換算し、商品・サービスに表示する「カーボンフットプリント(CFP)の考え方が提唱されており、この取組みを実行するとなるとサプライチェーン全体でのCO2排出の把握が必要となり、サプライヤーもカーボンニュートラルへの取組みが求められる。
 サプライヤー側にとって労務負担する面の強い印象のカーボンニュートラルへの取組みだが、生産効率性に加えて、環境に注目した製造工程に付加価値がつき、競争力をつける好機とも捉えられる。カーボンニュートラルに先進的に取組む大手ファスナーメーカーの一部では、冷間圧造/鍛造工程そのものを、金属屑を発生させない地球環境にやさしい加工技術として前面にアピールする動きも見られる。環境に配慮した製品やサービスを指す「エコプロダクツ」という言葉も浸透してきており、ファスナー業界全体で社会に発信していきたいところだ。さらにはこうしたカーボンニュートラルに関連する新たな市場へのファスナー需要にも期待したい。

 

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