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義務と権利と市民サービス

ドヤ街(簡易宿泊施設の密集地域)の一つ”山谷”。平成20(2008)年頃から「ネットカフェ難民」という言葉とともに、この問題が世間で意識されるようになった際、石原慎太郎都知事(当時)が「ネットカフェは一泊1500円だが、山谷は200〜300円で泊まれる宿がある」旨で発言した事に対し、住吉弘台東区長(当時)が「現在の山谷の宿泊料は、そんなに安くない」旨で反論し、石原都知事が発言を訂正した事からもう10年以上経過している。

社会的弱者をどこまで支援するべきか?今月襲来した台風19号は、改めてこの問題を考えさせられる機会となった。テレビのニュースでは特別警報の出る緊急性から「命を守る行動を…」と呼びかけがあったが、台東区が解放した避難所では区内に住所がない路上生活者(ホームレス)2名を追い返した。確かに他の避難者への配慮もあるかもしれないが、この問題は国会でも紛糾し、区は検討・対策を進める事を表明した。

災害発生時にその場所にいる被災者=住民とは限らない。一大観光地の浅草寺があり、北関東を通って北海道・東北・北陸地方へ向かうJR上野駅を抱える台東区。区内には住民の人口をはるかに超える人々が在勤・観光して、移動での通過に利用しているだろう。

例えば今まで住民として長年納税を果たしても、何らの事情で一度路上生活者となったら?来年のオリンピック招致活動で「お・も・て・な・し」とアピールしたようにインバウンド需要を重要視している一方で、災害において住民票の有無を確認するのならば外国人観光客は対象外だろうか?非常事態ならば住民でなくとも最低限の支援は必要なはずだ。

市区町村レベルに限らず行政にとって、どこまでが市民(住民)サービスの対象となりうるか?自己責任論が蔓延する現在。生活保護の金額の高さや不正受給の問題もある一方で、本当に困窮している人が受給しないで自宅で餓死する事態もある。また憲法改正の草案に、家族の面倒を義務化させようとする「家族規定」を設けようとする動きがあるが、家族を持たない住民はどうするのか?そして今まで徴収してきた年金や様々な社会保障制度の意義とは?極論として「我が家の老人の面倒は我が家で見るから、年金は払わなくてもいいのでは?」となりかねない。この考えが行き着くと、行政の存在意義自体が揺らぐのではないか?

納税という義務を果たしている住民に対し、災害による非常事態での救助や、困窮する悪循環を断ち切る「きっかけ」としての支援を受ける権利。行政は助かる命、立て直せる生活を見捨てないのが義務のはずだ。

2019/10/28 金属産業新聞