活発にM&Aを検討できる環境を

2022年6月6日

 中小企業の事業承継のひとつとしてM&Aの関心が高まりつつある。ファスナー業界でも自社、更には業界全体の成長を維持していくためにも活発に検討していく環境を作っていくべきだ。
 「中小企業白書2022」によるとM&Aの件数は公表されているものだけで4280件と過去最多の件数となった。買収先の企業の探し方については金融機関に依頼するケースが7割と多く、続いて専門仲介機関への依頼が4割という。近年ではM&A件数に比例して支援機関の数も増加しており、ノウハウや知見が十分でない機関、悪質な業者の参入を抑制するために「M&A支援機関登録制度」が創設されている。
 ファスナー業界で先行してM&Aに取り組む事例は大手の上場企業が多い。自社の生産拠点の製造領域外を主力とする中堅、小規模メーカーに金融機関を通じて接触を図りグループ傘下に迎え入れる事例が見られる。上場企業の中には、ファスナー領域や周辺領域を超えて、まったくの異業種分野に参入していく事例もあり、これら企業はファスナー事業とそれら領域のシナジーを視野に入れている。
 また中堅企業の間でも、これまで協力サプライヤーとして取引関係があった下請け加工メーカーや表面処理業者などが、後継者不足などをきっかけに株式を手放して親会社のグループに加わる事例も見られた。
 小規模事業者の間では、黒字経営が続いているにもかかわらず、後継者が不在で現役を退こうとしている70代以上の経営者が廃業も視野に入れているケースが少なくない。こうした中で彼らの子世代にあたる経営者が、これら企業に買収を模索するケースも見え始めてきた。次世代の意欲的な試みに本紙は今後も注目していきたい。
 関東メーカーの事例では、圧造メーカーが後継者のいない切削加工メーカーの株式取得を増やして子会社化。互いの販売チャネルを活用しながら加工を補完して連携を強めた事例があった。別のケースでは、切削加工メーカーが、やはり後継者のいない同業メーカーを買収。事情を知らない買収先の社員に、自ら赴き自分の想いを全て話してきたというM&Aに初めて挑んだ若手社長の声が印象的だった。
 こうした動きが一部で見られる一方で全体的に見るとファスナー業界のM&Aの事例はまだまだ少ない。海外に目を向けると米国のファスナー業界からは毎月のようにM&Aの情報が本紙に送られてくる。廃業や倒産はその企業の技術、ノウハウが業界から消滅することを意味する。日本のファスナー業界全体の成長を下降線に向かわせないためにも各社がM&Aを活発に議論できる環境は作られるべきだ。

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