渡航制限の緩和、目先の指標に囚われるな

2021年11月15日

 緊急事態宣言が解除されてから二月が過ぎたが、おそらくここまで小康状態が続くとは誰も予想できなかったのではないか。感染者数が減少した原因については様々な議論が続けられており、ワクチンの普及や宣言による外出の抑制、果てはウイルスが自滅する方向へ突然変異したなど様々な説が飛び出しているが実際のところ減少の理由は明らかになっていない。そんな中、産業界からは国際競争力の低下が懸念されることから渡航制限の緩和を訴える声が出ている。感染者数がここまで減少しているのは(感染者数が極めて低い水準にあるとしている中国を除けば)日本にのみ起きている事象であり、世界を見れば特に10月中旬より欧州を筆頭に感染拡大傾向にある。その状態で新たな変異株が海外から持ち込まれれば元の木阿弥ではないか。今更強調するまでもなく、感染爆発による社会的・経済的な損失は計り知れない。政府及び関連省庁は目先の指標だけ見るのではなく慎重な判断をするべきだ。
 一方、既に述べたように急減の根本的な理由が判明していない以上油断は禁物ではあるが、国内での社会活動については宣言明け以降以前の姿を取り戻しつつある。業界でも関連展示会が開催されたり、あるいは会合の話が徐々に出始めており、忘年会・新年会の開催を予定している業界団体もあるという。今年は昨年に引き続きコロナ禍への対応が大きな経営課題としてあるのに加え、鋼材市況の高騰やタイトな供給状況、また海外製品の大幅な値上がりなど鋲螺業界をはじめ製造業にとっては過去10年では最も厳しいといっても過言でないほど多くの課題が降りかかってきている。このような局面だからこそ結束を強め、交流や情報交換をしていくのが本来望ましいと思われるが言うは易く行うは難し、というものだろう。我々はこれまで感染拡大時の社会活動に適応しようと努めてきたが「コロナ前の活動」ではなく「感染減少時の社会活動」は初めての経験である。ハリネズミのジレンマではないが、適切な距離を見つけていきたい。
 ところで、宣言解除を受けてテレワークや在宅勤務を減らす動きもあるという。日本ではテレワークがそれほど滲透せず、生産性の向上にも寄与しなかったとされているがその背景にはデジタルデバイスに慣れていないワーカーが一定数存在したのに加え、メンバーシップ型組織の中で個よりも集団として動く場面が多い日本企業にとってコミュニケーション効率が落ちるテレワークは馴染まなかったものと思われる。しかし繰り返しになるが現状の小康状態がいつまで続くのか分からない以上、「馴染みませんでした」で済まされる問題ではないだろう。企業の継続のためにも組織や仕事のあり方を変えていくのは今後も必要とされるのではないか。

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