政治は自国の盾と矛になれ

2021年9月27日

 自民党総裁選が29日に投開票され、新しい総裁が決まる。コロナ禍という非常事態の日本を菅義偉前首相から引き継ぐ形となり、また近く始まるであろう次期衆院選で、政府与党のこれまでの取り組みについて国民から査定される船出となる。
 それぞれの立候補者からは、コロナ対策に始まり外交や国防、デジタル化、多様性などをテーマにした政策の議論が報道を介して伝わってきたが、日本の主幹であるものづくり産業が抱えている課題について意欲的な経済政策の議論が交わされていたのかは見えづらかった印象だ。
 日本の製造業にイノベーションが生まれにくくなっている理由、またこれまで得意としてきた「低コスト高品質体制」に限界がきていること、日本人全体の所得水準の向上が世界から遅れを取り始めていること、これら現実と課題を直視して包括的な政策を打ち出す必要があるだろう。
 これまで日本型の製造業は、主に人件費の安さを海外に求めて組立メーカーとともにサプライヤーも海外進出して現地生産を行ってきたが、これは日本がその国よりも経済成長で永遠に上回り続けていくことを前提に成り立っているモデルだ。前述の課題を解決していかなければ、いずれはこうした国から生産拠点の進出先として逆に選択される立場に陥ってしまう。その時、我々は「ものづくり大国日本」と胸を張って言えるだろうか。一部ファスナー製品でも日本製の価格が海外製を下回る逆転現象が始まっていると聞く。「OEM工場大国日本」に変わらないように、早急な政策が求められる。
 また、ものづくり産業の視点から見て、日本の政治は世界の枠組みやスタンダードに対してただ受け入れるだけの弱腰ではいけないはずだ。欧州の環境規制をはじめ、EVシフト、SDGs、カーボンニュートラルなど、日本企業は様々な海外からの「価値観」への対応に場合によっては奔走され、それが企業の存続に関わっているケースさえある。国内の記者会見で「全部EVは間違い」と自動車メーカートップが訴えていたが、それ以前に日本の政治トップが世界に対して、なぜこの主張を発信することができなかったのか。振り返れば〝ガラパゴス〟と揶揄されていた時の方が日本は世界に注目されていた。グローバル経済を円滑とするため、各国が批准すべき枠組みやスタンダードは当然に必要だ。ただし自国ファーストやナショナリズムの気運が強まる世界と対峙していくためには、自国が不利にならないよう盾となり、自らが新たな枠組みを発信できる矛となるのが政治の役目だろう。

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