今こそ人材市場に業界の魅力を

2021年7月26日

 コロナ禍に入りビジネスの現場でも、まだ数年先であろうと思われていた変化が一度に押し寄せている。いや、変化せざるを得ない状況に現場が追い込まれてたと言っても過言ではない。不慣れな手付きでパソコンを操作しながらオンラインで取引先と会話している経営者が多く存在することが、それを表している。
 数年先ではあろうと考えていたビジネス環境の変化のひとつに、兼業・副業を認める制度がある。ファスナー業界でもこの制度を運用している企業はまだまだ少ない。(公財)日本生産性本部が今年7月に発表した雇用者を対象にした調査でも「現在、兼業・副業を行っている」との回答は7・2%と少ない。ただ兼業・副業を行っている人のうち3割は勤務先が認めていない、または分からないにも関わらず、兼業・副業を行っていることが分かった。企業側が制度として認めないことを雇用者に明確に示しているのであれば問題はないが、明確になっていない企業は、早急に就業規則等で会社の方針を示すべきだろう。兼業・副業を行ってみたいと考える人が今後増えてくるため、雇用上のトラブルが発生する可能性があるからだ。
 企業側としては本業への注力が疎かになるなどのネガティブな要素が目立つ制度と思われるが、一方で、本業では得られない知識や技術の吸収や発想・アイデアの習得を期待して認めていこうという考え方も、大手企業を中心に広がりつつあるようだ。
 前述の調査で興味深いデータがあった。兼業・副業を行っている人にポジティブな側面を聞いたところ、「本業の勤め先の労働環境は改めて良いと感じた」、「本業の仕事内容に改めて魅力を感じた」の回答が約半数おり、本業の良さを改めて見直す経験をしていることだ。
 コロナ以前より人材の製造業離れが大きな課題として存在する。飲食・サービス・観光業などコロナ禍で深刻な打撃を受けた業界と比較すると、製造業が受けたダメージは圧倒的に小さく、総じて昨年後半より回復を示す企業が多い。とりわけファスナー業界でもモノの需要回復のほか、一部で巣ごもり需要やコロナを追い風にする企業もあり、改めて業界の底力を見た。飲食業界から転職した人材を雇用したファスナーメーカーのケースも聞く。異業種からファスナー企業に就職して給与水準が上がったというケースは少なくないはずだ。コロナ禍の今だからこそ業界の良さを改めて見直し、人材市場へアピールする好機と捉えるべきだろう。ただし〝昔のまま〟では風を味方にできない。多様な働き方を受け入れる環境の整備と、デジタル技術など最新のツールを活かして〝弱点〟を解消していくアイデアが必要だ。

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