易き(安き)に流れる

2021年2月8日

 1月下旬から経団連(中西宏明会長)と連合(神津里季生会長)の間で春闘=労使間交渉が始まった。新型コロナウイルス感染症により景気が悪化する中で経団連側は「ベースアップは困難」、連合側は「賃上げの流れを維持する必要がある」と双方主張。さらに中西会長は「日本の賃金水準がいつの間にか経済協力開発機構(OECD)の中で相当下位になっている」と問題提起し、神津会長はそれについて「平均賃金は先進諸国と1・5倍前後の開きがある」と話したが、世界に引けをとらない賃金水準に上げるには事業者、それこそ経団連所属のような大手企業が手本となっていかなければならないはずなのに「ベースアップは困難」ではデフレ脱却など絵空事だろう。
 話は変わって同時期。ネット上のソースコード共有サービスおいて大手銀行が使用しているシステムや電機メーカーが顧客向けに開発したシステムのソースコードが無断公開され問題となり、銀行やメーカーが各方面にセキュリティ上の問題はないと説明に奔走。原因は委託したシステムエンジニアが転職準備の為行ったものだと判明したが、それと同時にエンジニアの下請け構造と収入の低さなど問題も露見した。
 どのような産業にも通じるが多重下請けの構造や、重要な案件に携わる仕事ぶりに対しての収入の低さ、本来収入の多寡に関わらず守秘義務は守られるべきだが、いざ問題が起きたときに責任の所在や対応は誰がするべきか?重要な仕事は出来るだけ社内で、出来なければ信用できて責任を取れそうな業者に十分な支払いで委託―が必要だと、構造的な問題が伺える。
 バブル崩壊以降の経済低迷を「失われた20年、30年」といわれて久しいが、コストダウンを求めながらも高い品質・サービスを過剰に求めていき、消費者が事業者に、そしてその事業者が消費者として別の事業者に巡り巡ってデフレを起こし、互いが擦り減ってジリ貧になっていったのが現状にも思える。
 コストダウンは結果=数字を早く出してくれる。人は「易きに流れる」が、経済が「安きに流れた」結果がデフレだろう。反対にインフレというと第二次世界大戦前のドイツのように人々の生活に混乱を起こすイメージがあるが、過度なスピードでなければ順当な経済成長であり、今現在生み出しているモノ・ヒト(労働・サービス)は、過去のモノ・ヒトより価値が高くなり、同時にカネは価値が低くなって、過去の貯蓄が相対的には目減りもする。逆にデフレが進むと今働いて稼ぐ事よりも、過去に働いて稼いだ金が高くなっていく事にもなる。
 過去よりも今、そしてこれからの成長を志向するには「安きに流れ」てはならないはずだ。

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