政治や社会不安、カントリーリスク再考の時

2020年6月22日

 5月25日にアメリカで黒人の逮捕拘束時に死亡した事件をきっかけに各地で起こったデモは、もはや逮捕時の不手際を批判する範疇を越えて暴動となって破壊行為や略奪が横行している。様々な人種で構成され階層が形成されている米国社会。経済・軍事ともに対外的には強い「大国」かもしれないが、国内は対立により社会不安が起こりやすい事を忘れてはならない。
 「カントリーリスク」という言葉が使われるようになって久しいが、アメリカに限らず世界の国々では政変や治安、ルールに基づかない恣意的な行政や、不十分なインフラといった不安要素がある事を前提に、企業は進出・事業展開を考えなければならないのだろう。
 思い出すのは2005年に起きた中国各地で起こった「反日デモ」だ。やはり米国同様で規模の大きい「大国」であり様々な民族を抱えて成立し、都市と地方をはじめ格差で社会不安が起きやすく、日本への批判はあくまできっかけかもしれない。
 経済面で中国の魅力は、広い国土と膨大な人口に基づいた生産能力と消費が見込まれる市場だ。各国の企業が進出し「世界の工場」とまで呼ばれたが、政治的には中国共産党による一党独裁体制であり、進出した企業が撤退する際に改めて分かったのは、設備等は持ち帰れず中国国内にある物は基本的に政府・党の所有となるという事だった。
 比較的自由や安全が保障されている香港では昨年3月以降、「逃亡犯条例改正案」の撤回等を求めて民主化デモが継続的に起きているが、5月22日から28日にかけて開催された全国人民代表会議では香港への統制を強化する「国家安全法制」制定が決定し、香港の独立性が着実に失われつつある。
 1997年に返還されて以降も繁栄しているのは、自由と安全が保障されながら大陸本土との窓口の役割もあったからであり、いずれは広東省にある只の一地方都市となるかもしれない。
 もちろん日本国内が「カントリーリスク」ゼロというわけではない。自然災害の多さゆえに逆に外資から見ればそれが「リスク」と見なされているかもしれない。また近年、企業への法人税は減少傾向にあるが、反対に国民への税負担は増加傾向にある。「法人税を上げると企業が日本から撤退してしまう」という意見もあるが、消費者(国民)の購買力が落ちて売り上げの見込めない市場に魅力があるだろうか?
 かつてはコストダウン目的でグローバル化が進み、現在は新型コロナウイルス感染症をきっかけに問題点が顕在化したが、それに限らず行政や治安など、広い意味で国・地域毎の事業環境での長所・短所を見直す必要があるのだろう。

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