数字にならない価値

2020年1月12日

 「バイトテロ」…。アルバイト等の非正規雇用に限らず従業員が行ういたずら行為、及びそれをネット上に拡散する行為の名称を、今でこそこう呼んではいるが、最も初期に有名となった12年前の某飲食店での事例に始まり度々起きており、もはや突発的・一時的なものでは無くなっている。
 おそらく問題を起こすような職務に対する意識の欠落した人は一定の確率でいるはず。しかし当時は人件費=コスト削減目的で事業所内の業務を一人でこなす「ワンオペ」と呼ばれる勤務体制により、従業員同士による相互の監視が行き届かなかった事が原因とも云われていた。
 一方で雇用主。最近では某芸能事務所において所属芸能人が反社会的勢力の宴席で事務所を通さない闇営業を行った事が問題となったが、原因は紹介(斡旋)した芸能人との仲が良かったからではなく、以前から問題とされていた安い給与体系、そして事務所所属扱いにしているのに書面で雇用契約を結ばない不安定な就業形態との見方もある。
 またタオル紡織メーカーの下請け工場における、外国人実習生の過酷な雇用環境がテレビ番組で明らかとなった事をきっかけに、その地域ブランドを冠する周辺企業全体までもがイメージ低下を起してしまった事例もある。
 企業イメージ、ブランド、信用は容易く失われるが、後々考えれば問題点を放置して起こるべくして起こった例は多々ある。決算書等の経理書類において数字では表記されない、形の無い物、数字に表れない物は軽視されがちだ。
 頻発しているのを鑑みると、「信賞必罰」における「賞」を疎かにして、直接的でないにしろ有能な従業員や、真面目に頑張っている事が評価されないのも背景にあるのかもしれない。
 昨今では「信用スコア」が提唱され実用化されつつあるが、これはまさに個人単位のブランド・企業イメージの一種だろう。個人情報保護の希薄化、監視社会となる可能性について危惧されているが、この概念がは広まりつつある背景は個人であれ企業であれ、関係を持ち、特に金銭のやり取りが発生する事案については、信用できる相手でなければならない―と皆が不安感を持ち、何とか数値化してまでも安心したい心理の現れともいえる。
 コスト削減という名目で資金を惜しんで、疲弊して体力や勤労意欲が失われるという、なかなか数字として減少していくのが表れにくいものほど、何かのきっかけで問題となり、ブランド・信用という価値が失われて売上や収益等数字に表れるものにはじめて影響を及し、最終的には〝後で高くつく〟事例が社会で蔓延しつつある表れだろう。

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