自衛と自立、転換期のリスクコントロール

2020年1月12日

 トヨタ社長、経団連会長といったトップらが終身雇用制の存続が難しいと発言した。トヨタ社長は「雇用を続けている企業にインセンティブがもう少しないと、終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べた。要するに続けるメリットが少ないということである。これを従前たる当然の認識と思う人も多かろうが、改めてトップの口から発せられたことで注目が集まった。
 そもそも終身雇用制とは新卒一括採用→OJTによる人材育成→人事異動→年功序列(定期昇給)→定年退職(退職金制度)から成る日本独自の雇用慣行である。そして今、日本の雇用はメンバーシップ型(日本型)からジョブ型(欧米型)への転換が進みつつある。
 従来のメンバーシップ型は▽職務や勤務地を限定しない▽職務範囲を定めずに企業や従業員が必要と判断すれば内容に関わらず業務を遂行▽新卒一括採用▽雇用保障は強い(定年まで)▽年功序列・職能給―といった具合だ。対するジョブ型は▽同一事業所の同一職種に限定▽職務記述書に記載された内容や条件以外の仕事を行う義務は発生しない▽採用は欠員時に募集▽雇用保障は弱い▽職務給―である。
 さて、大企業は終身雇用制をやめてジョブ型に移行せんとしているが、中小企業ではどうだろうか。終身雇用制が無くなれば大企業は潤沢な資金から解雇を行いやすい。シェイプアップし、雇用に流動性を持たせ、エキスパート人材を採用すれば国際競争力は増すだろう。しかし中小企業の場合はそうは行かず、むしろ社員には長く会社に在籍してもらい、熟練した技術者になってもらいたい筈だ。日本の若者が安定を求める中、慢性的な人手不足の中小では終身雇用を維持しようとする方が有利かも知れない。
 労働者の側から見れば、転職を繰り返し、スキルを身につけて段々と待遇を良くしていくという働き方が主流にはなる。終身雇用制に比べて雇用保障は弱く、帰属意識は希薄であるから「何のために働いているか」を明確に持つことが大切になる。
 本格的な雇用の転換が行われるのであれば、従業員の側もマインドチェンジを行う必要がある。加えて年金制度の欠陥や、家計の預金割合が高いことに端を発する「老後資金2000万円不足」のアナウンスといった、人生設計を根本的に再考せざるを得ない課題が叫ばれている。そんな中、我々は金融リテラシーを高め、自衛しなければならない。資本主義は金融の知識のない人からある人へ金が流れるシステムである。今後の従業員のマインドとしては「企業に所属しつつも自立する」というバランス感覚が重要である。自らでリスクをコントロールするべき時代が到来しているのだ。

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