政権運営と労働制度改革の行方

2020年1月12日

 有給休暇5日の取得義務に代表される働き方改革の諸制度が開始したが、政府は戦後以来、今までになく労働問題に力を入れている。長らく、労働条件という点では、少ない有給日数と自由解雇に象徴されるアメリカ型自由主義社会と、夏の長期休暇や手厚い雇用保護に象徴される欧州型福祉社会の中間に位置してきた我が国だが、欧州の福祉重視型に一歩傾いたこととなる。
 ひとまずこれを導入してみて、今後、労働政策についてどう舵を切るかは政権の支持率の行方次第と言える。経済面でこうした労働者保護の左派的な政策を、一方で政治面では集団的自衛権・憲法改正議論等の右派的な政策をと、左右同時に強力に進めるというのは、これまでの政権にはない特徴である。左右を幅広く取り込む政策は、まさに現政権が長期に高い支持率を維持している秘訣ではなかろうか。
 事実、ホワイトカラーエグゼンプションを高所得層のみならず中産階級にまで拡大を検討した際、大いなるバッシングを受け、政権批判が高ぶった。これに加え、電通の問題が起こり、政権はホワイトカラーエグゼンプションの一般化という、当初計画していた政策は高度プロフェッショナル制度までに留め、急速に労働者保護へ向けた働き方改革に乗り出さざるを得なくなったのである。
 違反事業所に対しては、罰金制度もちらつかせるなど、本腰を入れる構えであるため、企業としては労働者の健康保持の目的に加えて、法的な企業防衛の面においても制度の順守が肝要である。
 一方、副作用として、更なる人手不足が挙げられる。休暇が増加しても仕事量が減少すれば人手不足とはならないが、しかし実際、注文が減るわけではなく、また利益の確保上、注文が減っても困るわけであるし、仕事量が同じであれば投入する労働量のみが不足してしまう。そこで効率化が謳われるのだが、ヘッダー、ローリング等、特に生産部門ではどうしてもある程度人手を確保しておかねば機械を回せない。まずは段取りの簡略化や高速化と精度向上の両立化へ向けた機械の改良・開発、さらに事務部門・物流部門でのIT系管理システムの導入や省力設備の導入による効率化、さらには外国人材・高齢人材の活用などを漸進的に実施していくほかない。
 また、今後の労働制度改革・労働者保護が我が国の経済状況に即しない過剰なものとなれば景気の失速を招くことも考えられ、また外国人材の増加が地域との摩擦を招くなどすれば、政府は新たな課題に対処することとなり、舵取り次第では政権を揺るがしかねない。働き方改革の行方は、支持率・世論・景気を背景に政権運営でまた変わってくるのだ。

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