「ものづくり白書」について

2020年1月12日

 一部メディアが報じるところでは、政府がまとめている2019版の「ものづくり白書」ではAIやIoT等のIT技術を活用とした「技能継承のデジタル化」が深刻化する人手不足を解消する策の一つとして挙げられているという。「IT技術を活用した人手不足(技能継承)の解消」というコンセプトは特に近年の白書で目にするようになっており、特にここ1・2年の間に「AI」「IoT」という言葉が話題に取り上げられるようになった一方で、再三にわたって白書に同じコンセプトが登場していることから国内製造業の現場には浸透していない実情が伺える。
 ねじ業界においては人手不足解消の手段としてロボットやAGVなど設備(ハード)面では活用事例を多く見かけるようになったが、ITの主戦場であるシステム(ソフト)面、特に現場におけるITの活用という点に関してはデータ収集を通じた“現場の見える化”に取り組む企業が現れてきた一方でまだまだ事例は少ないように見える。当然のことながら現場に応じて製造品目は異なり、長年にわたり培われてきた様々なノウハウがあるためそれらに合ったシステム構築は一朝一夕にはいかないだろう。そもそも人手不足が深刻化している中、システムを扱う人材をどのように確保・育成するかも問題となってくる。更に言えば仮に人材が確保できたとして、「どのように取り組むのかすら定かでないIoTより、現場や営業を助けて欲しい」―となってしまうのではないか。人手不足を解消するための技術に人手を取られてしまっては本末転倒だ。
 白書では毎年事例に応じた企業の取り組みが多数紹介されるが、中小製造業の現状を踏まえたマイルストーンとなることを期待したい。また、ある関係者は技能をデジタル化することについて「(日本の)ものづくりの良い点が失われてしまう」と懸念を示していたが、デジタル技術が加わることによって日本のものづくりがどのように変化するのか、より実際的な青写真が示されることを期待したい。
 元号も令和となり新しい時代の幕開けとなった2019年であるが、年初から2月初旬頃まで感じられた前向きな景況感は一体どこへ行ったのか、一転して厳しい情勢が続いている。前々から指摘されている米中間の貿易摩擦等や中国経済の失速など対外的な要因に加え、国内においても例えば自動車産業では一部メーカーによる工場の操業停止や過去最大規模のリコールなど産業全体に大きな影響を及ぼす出来事が続いている。経済後退の兆しが見えている中、政府は製造業がどのように変わるべきか確かな道標を示してほしい。

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