「強いドル」の悪影響、鉱産資源輸出国に不安も

2018年10月22日

 「強いドル」の傾向が今年に入って長期に渡り続いており、終息の予兆を見せない。一般には米トランプ政権の貿易規制、増税政策がこれの原因となっているという見方が強く、事実9日にIMFが発表した「世界経済展望」報告書も、こうした政策がグローバル経済の脅威となっている、と警告しているほどだ。だが大統領本人からしてみれば、少々困惑気味のようだ。年初の「強いドルを望む」という発言は衝撃をもって世界に受け止められたが、実際にはそれ以上に、昨年から「強いドルは米国を不利な立場に置く」という発言を繰り返している。事実、厳しい貿易政策を受けて2月以来減少していた貿易赤字も、6月からまた輸出減から増加に転じている。
 さてこの「強いドル」により大変な痛手を被っているのが新興国通貨で、トルコ・リラ、インドネシア・ルピア、ブラジル・レアル、南アフリカ・ランド、インド・ルピーがこれまでに通貨価値の大幅下落を今年経験している。現状(10月10日)、対ドルで今年1%以上の下落幅を見せていないアジア通貨はタイ・バーツ(0・85%下落)のみである。国内の政治的リスクもありうるが、おおむね米中貿易戦争の「巻き添え」になっているのが最大の原因ではないだろうか。
 こうした新興国の経済は経常・財政収支赤字の合計がGDP比7%以上もあり、補填のために外貨資金を頼っている。例を挙げると外国債などがそれにあたるだろう。この外貨資金はインフラ、産業基盤の整備にもまた充てられている。
 一方で投資する側の先進国にとっての利益も、単に投資家が為替取引や利子から得るものだけではない。新興国は同時に鉱産資源輸出国である例も多く(ブラジル=鉄鉱石、ボーキサイト輸出額2位、南アフリカ=クロマイト生産量1位、インドネシア=ニッケル鉱石輸出額3位、銅鉱石輸出額4位)、こうした国々の経済的安定が鉱産資源の安定した生産につながり、先進国の工業が鉱産資源の安定した価格という利益を得られることにもつながっている。極端にいいかえれば、資源輸出経済から脱するために発行した外債が資源輸出を安定させている、ともいえよう。
 さてこのまま現状の新興国通貨不安が続くと恐れられるのは、まず国内リスクの増大による鉱産資源価格の高騰ではなかろうか。実際に南アフリカ産クロマイトは鉱山労働者のストライキ、電力価格の上昇などによる価格高騰がここ5年で度々発生しており、通貨不安の増大が国内経済に悪影響を及ぼす可能性は大きい。その次には新興国に対する産業投資の減少、インフラ開発の遅れも懸念される。「強いドル」の悪影響を、産業的に注視することも必要だろう。

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