不可避な材料値上げと価値保証の難しさ

2018年1月15日

 各業界団体長の年頭所感や新年賀詞交歓会における挨拶で決まって使われるフレーズに「昨年は…」という前置きがあるが、昨年は素材&モノづくり産業とそれらを活用する組立産業、そしてインフラ事業運営関係者にとって真価が問われた1年だった。日本を代表する企業グループによる品質管理不正や、不適切運用の結果が毎月のように報じられた。
 顧客の求める価値に対し提供する価値の保証が本来の「品質」だが、それは当然〝適正な対価〟があって成り立つ。しかし現状、デフレ経済や新興国を始め海外企業との競合を強いられている国内製造業の多くは収益性確保との〝板挟み〟状態に苦しんでいる。品質の維持・向上投資や適切な人材確保・育成のあり方、過剰なサービスにかかる負担が重圧となり、組織的には現場と経営陣との〝乖離〟もあり、企業をして不正な行動に追いやる構図だ。
 他方、モノづくり自体も今や「インダストリー4・0」のように特注仕様品の効率的な大量生産や変種変量生産が進む中で、いかにコストをかけず顧客ごとの価値を保証していけるかが課題となっている。収益構造の現状を把握・再認識するところから始め、顧客との交渉などを含む商慣行を見直すとともに、時には顧客を巻き込んだ設計仕様変更や、場合によっては公的支援を仰いでも対応していかなければならない。
 ねじ業界も前述のような環境下、様々な取り組みを行ってきた。昨今における材料の品質データ偽装問題では、メーカー段階こそ材料供給先からの早期アナウンスもあり〝事なき〟を得たが、直需商社筋は〝火消し〟に追われたところも多かったようだ。
 特にねじ用材料を取り巻く環境では昨秋以降、旺盛な建設需要などを背景にタイト感が強まり、高唱えの市況展開が続いている。自動車関連ねじメーカーでは支給材価格が抑えられていることもあり、入手難から計画生産に支障をきたし、市中で手当てしようとするとコスト高につくというジレンマに見舞われている。
 折から昨年12月21日、新日鉄住金ステンレス(NSSC)はステンレス線材の12月―2018年2月契約価格(18年1―3月生産分)の引き上げを発表。上げ幅はニッケル系の基準鋼種SUS304でトン3万円(約7%)、クロム系SUS430でトン1万5000円(同5%)と、ニッケル系で2四半期ぶり、クロム系で3四半期ぶりの値上げとなる。原料の値上がりに伴いアロイリンク(原料価格連動)部分が引き上げられたもので、他の特殊鋼種のステンレス線材もニッケルの含有率に応じて値上げされる。
 年初早々なので明るい本稿に仕上げたかったが、スタートから取引先との〝綱引き〟は各社とも避けられそうになく、今後の成り行きが注目される。

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